SNSを活用した採用活動が一般化する中、法的リスクへの適切な対応が重要性を増しています。本記事では、SNS採用に関連する法的課題と、実務的な対応方法についてご説明します。

SNS採用に関連する主な法規制
1. 個人情報保護法との関係
SNSから取得できる応募者の情報は、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。特に注意すべき点として:
- 利用目的の明示義務
- 適切な情報管理体制の構築
- 情報の取得範囲の制限
- 本人同意の取得方法
これらの要件を満たさない情報収集は、法的リスクを伴う可能性があります。
2. 労働施策総合推進法(男女雇用機会均等法含む)
SNSを通じた採用活動においても、以下の差別的取扱いは禁止されています:
- 性別による差別
- 年齢制限
- 障害を理由とする差別
- 出身地による差別
3. 職業安定法
採用情報の提供に関して:
- 虚偽の表示の禁止
- 誤解を生じさせる表示の禁止
- 応募者の個人情報の適正管理
具体的なトラブル事例と対策
事例1:SNSプロフィールによる採否判断
問題の概要
応募者のSNSアカウントをチェックし、プライベートでの投稿内容を理由に不採用とした事例。
リスクと対策
- プライバシー侵害の可能性
- 採用選考の透明性への疑義
- 差別的取扱いの疑い
具体的な予防策
- SNS確認に関する社内ガイドラインの策定
- 採用基準の明確化と文書化
- 選考過程の記録保持
- 応募者への事前告知
事例2:採用情報の不適切な発信
問題の概要
SNSでの採用情報発信において、実態と異なる労働条件を掲載した事例。
リスクと対策
- 職業安定法違反の可能性
- 応募者とのトラブル
- 企業イメージの低下
具体的な予防策
- 情報発信前の法務チェック体制
- 発信内容の定期的な見直し
- 労働条件の正確な記載
- 担当者への法令研修
事例3:個人情報の不適切な取り扱い
問題の概要
SNSを通じて収集した応募者情報の管理が不適切だった事例。
リスクと対策
- 個人情報保護法違反
- 情報漏洩リスク
- 損害賠償請求の可能性
具体的な予防策
- 情報管理体制の構築
- アクセス権限の適切な設定
- 保管期間の明確化
- 定期的な社内監査

実務的な対応ガイドライン
1. SNS採用方針の策定
採用活動開始前に以下を明確化:
- 閲覧・収集する情報の範囲
- 情報の利用目的
- 保管方法と期間
- 責任者の設定
2. 情報収集時の注意点
収集する情報は以下に限定することを推奨:
- 公開プロフィール情報
- 職務経験・スキル
- 業務関連の投稿内容
- 公開されている職歴
3. 運用体制の整備
効果的な運用のためのポイント:
- 担当者への定期的な研修
- チェックリストの活用
- 法務部門との連携体制
- 定期的な見直しと更新
4. トラブル発生時の対応手順
問題が発生した際の基本フロー:
- 事実確認と記録
- 法務部門への相談
- 必要に応じた是正措置
- 再発防止策の策定
SNS採用を適切に行うためのチェックリスト
事前確認事項
□ 採用方針の明確化
- 対象となるSNSの選定
- 収集する情報の範囲
- 利用目的の特定
- 運用体制の確認
□ 法的要件の確認
- 関連法規の確認
- 社内規程との整合性
- 必要な同意取得方法
- 情報管理体制
運用時の確認事項
□ 情報収集段階
- 収集範囲の遵守
- プライバシーへの配慮
- 記録の適切な保管
- アクセス権限の管理
□ 選考過程
- 公平な評価基準の適用
- 選考記録の保持
- 応募者への適切な対応
- 不採用理由の整理
まとめ:SNS採用成功のための3つのポイント
- 明確なガイドラインの策定
法的リスクを最小限に抑えるため、明確な運用ガイドラインを策定し、定期的な見直しを行うことが重要です。 - 適切な運用体制の構築
担当者への教育と、チェック体制の整備により、リスクの早期発見と対応が可能となります。 - 継続的な改善
法改正や新たな判例に注意を払い、必要に応じて運用方針を更新することが求められます。
SNS採用は効果的な手法である一方、適切な法的リスク管理が不可欠です。本記事で紹介した対策を参考に、自社の状況に合わせた体制を整備していただければ幸いです。
介護経営総合研究所 代表 五十嵐太郎
名古屋大学経済学部を卒業後、株式会社リクルートにて通信事業、ブライダル事業、マーケティングに従事。
その後、民間介護会社、社会福祉法人にて大規模な経営改善を実現。2021年4月介護経営総合研究所を創業。
改善実績:採用コスト2,000万円削減、離職率5割削減、採用単価3万円で200人採用、人材紹介・人材派遣0
人材紹介会社費用の9割減、東京にて施設開設時に160人採用、利益率4倍、薬剤師応募を1時間で獲得、他多数。